東南アジアで一番大きな湖・トンレサップ湖
プノンバケンの見学を終えホステルに戻ると、ホステルオーナーのパパが待ち構えていました。実はパパからは顔を合わせるとしょっちゅう、トンレサップ湖のツアーに誘われていました。といっても、しつこい観光の勧誘ではなく、私達がまったく行く気が無いのを知ってわざと冗談交じりに言ってくる感じです。
「なに?明日も遺跡!?シェムリアップに来て遺跡の他にも見るとこあるだろう?ズバリおすすめはトンレサップ湖だ」
「もういい加減遺跡はいいだろう、もう見る遺跡も無いだろう?どうだ、そろそろトンレサップ湖に行かないか?」
「一番のおすすめはトンレサップ湖だ。うちにマージン●パーセント入るんだ」
「ええい、うちの儲けは一切なしだ!パンフレットの表記から●$安くするぞ。だからトンレサップ湖へ行かないか」
途中からトンレサップ湖というフレーズを聞くと、もう、おかしくておかしくて思わずニヤニヤ笑ってしまう状態でした。実は本当にこのツアーにはいかないつもりでしたが、トゥクトゥクのソファールさんにもフラレ、特に行きたい所も思いつかず、何となく「じゃあ明日行ってみるかぁー」という流れに。
実はプノンバケンから見えた夕陽に輝くトンレサップ湖を見て、行ってみたくなったというのもあります。
そこでホステルのパパさんに言ってみると最初は「ん?」と意外そうな顔をしつつも、そこは冷静にツアー会社に連絡をし明日の予約を取り付けてくれました。
ちなみにパパからのアドバイスとして「ツアー途中でオプションで乗る小舟はつまらないから止めとけ」でした。
↑利用したのはこのツアーです。ミニバン・ボート・ガイドさん込みでひとり18$でした。値切れば少し安くなりそうでしたが、カンボジアにお金を落とすことができるのもあともうわずかなので、一切値切らずこの料金でお願いしました。
そして翌日。
ホステルまでミニバンが迎えに来ました。他のツアー客は既に乗っていて私達が最後のピックアップだったようで、中には欧米のカップル4組が乗っていました。年齢層は中高年~若い人と様々です。
この日のガイドさんはよく笑う陽気な男性でした。
シェムリアップの中心部から約1時間弱ほど走り、何やら乾いた土ぼこり舞う河原に到着。
ここからボートに乗り込みます。
どうやらこの川はトンレサップ湖に繋がる河川のようで、船のスクリューが川底に当たってしまうほど水深が浅いようでした。
ガイドさんによるとトンレサップ湖は乾季と雨季とでは水量が桁違いに変化し、その様相も劇的に一変するとのこと。そして今は乾季なので水量がとても少ない時期だとのことです。
コーヒー牛乳のような色の川をしばらく走ります。
川岸には何やら漁の仕掛け網が設置されていました。トンレサップ湖ではたくさんの魚介類が獲れ、カンボジア国民の大切な食糧源になっているそうです。
しばらくすると高床式の一大集落が現れました。
川沿いの様子しか見えませんが、奥の方にもズラーッと家が立ち並び、かなりの規模です。
ここには学校や教会など人々が暮らすに必要な様々な施設が揃っていました。
ガイドさんによると水上生活の集落に上陸することもできるけれど、お金を要求されたりなどが多いようで「それでも行きたければ上陸しますが・・」ってことですが、それを聞いた後では誰も行きたいという人はいませんでした。
このトンレサップ湖が雨季にはどれほどの水量になるか、わかりやすいものがありました。
あの色が変わっているところまで水が来るってことです。凄ーーい。
マングローブの林に囲まれた小舟乗り場に来ました。ホステルのパパさんが「乗ってもつまらないから止めとけ」と言ってたとこですね。ここで希望者は別料金で30分ほどマングローブの林の中を遊覧できるそうです。
うちのツアーからは誰も乗る人はいませんでしたが、別のボートでやってきた韓国や中国の人達は次々と小舟に乗り換えていました。(何気に楽しそうだった)
マングローブ林の中はキィーキィーと猿の鳴き声だけが響き、深い山の森の中にでもいるようなちょっと神秘的な雰囲気でした。
お猿さんです。マングローブの森を縦横無尽に走り回っていました。
小舟乗り場はちょっとした食堂にもなっていて、同じツアーのお客さんはビールを飲んだりしています。
何気なく生け簀をみると中はワニが飼育されていました。トンレサップ湖ではワニの養殖も行われているそうです。
そのワニに気をとられていたら、同じツアーの女の子がキャッと小さな悲鳴をあげたので見てみると・・
なんとニシキヘビも飼育されています。
そしてなぜかウサギさんも。
誰も小舟に乗らないってことで早々に切りあげ、更にボートで進みます。
すると・・・
まるで海のように広いトンレサップ湖に出ました。
トンレサップ湖上をしばらく進んだところでボートのエンジンを切ります。あまりに静かな湖面にボートはポツンと浮かび、なんだか別の世界にやってきたかのよでした。
ここでガイドさんが静かに話し始めました。メコン川が流れ込むトンレサップ湖のなりたち、そしてカンボジアの歩んできた悲しい歴史と周辺国との関係、そしてこれからのこと・・。話の中で日本はカンボジアを助けてくれたから好きだと言っていたのは、私達に気をつかってくれたかな?
一生懸命にカンボジアの話をするガイドさんを見ていると、「アンコール遺跡だけじゃない、もっといろいろなカンボジアを知ってほしい」という気持ちがヒシヒシと伝わってくるようでした。
そのガイドさんの姿を見ているうちにフト
「遺跡はもういいじゃないか、カンボジアにはもっと見るところがあるぞ」
というホステルのパパさんの声が重なります。
そうか・・カンボジアの人達は、もっと多方面のカンボジアを知ってもらいたいんだ。
最後に船着き場に戻りミニバンで帰る途中、ガイドさんが「つたない英語で本当にごめんなさい」と言ってましたが、参加者はみんなガイドさんの自国を愛する気持ちを真摯に受け取ったようで、とても満ち足りた笑顔でそれぞれのホテルへと帰っていきました。
最初は参加しようか迷ったトンレサップ湖ですが、私は行ってよかったと思います。アンコール遺跡と悲しい歴史だけじゃないカンボジアを、ほんの少しだけ知ることができたような気がしました。
さてこのツアーの後、いよいよ次の国へ移動すべくホステルのパパさんに明後日の国境越えのバスの手配をお願いしました。
そしてカンボジア最終日の前夜、すっかり馴染みになった屋台に行き、帰り際いつものようにお兄さんに「じゃあ、また明日ね」と声を掛けられました。
「もう明日から来れないんだ」
「え?帰るの?」
「そうだよ」
「どこの国の人だったの?」
「日本だよ」
「えーーっっ、日本人だったの?もっとお金もらえばよかったよー(笑)」
「日本人はもうお金持ちじゃないんだよ」
「そうなんだ・・」
そして、しんみりするお兄さんと三昧。お別れでしんみりしているのか、日本がもう昔ほど豊かではないことにしんみりしているのか。もう日本が昔ほど豊かでないことは、観光客を相手に商売をしているシェムリアップの人が一番よく知っているんだと思います。
最初に来た時はあまりのゴミの散乱っぷりに「なんだこの国は!」なんて思ったけど、不思議と愛着が湧いて気が付けば去りがたくなっていたカンボジア。そのカンボジアともいよいよお別れです。